言霊マジカル第一話

k21c先生の作品「アウトサイダーに告ぐ」コリンウィルソンのアウトサイダーの概念を引き継ぐことを試みる評論です。

アウトサイダーに告ぐ

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作者:k21cノンフィクション


第一部

タイムズゼイアーチェンジン

(2)

 とはいえ、まだ代表的な何名かは登場していただく必要がある。ウェルズはバルビュスをさらに肯定するだけであるので省略する。次はキルケゴールカミュの「実存主義」のお二人へ登場してもらおう。キルケゴールとカミュは狭義では実存主義ではないであろうが、そのことがサルトルを敢えて省く理由でもある。サルトルは「実存主義」という宗教を構築したに過ぎず、その結論はキルケゴールと同じである。というよりそもそも彼ら三人もほぼバルビュスを肯定するだけであり、強いて登場させるならばカミュだけで十分に事足りるのだが、彼らの誰も登場させないというのはやや彼らの偉大さと比較すると近道が過ぎるだろうし、と言ってカミュだけというのも物足りないというものだ。

 セーレン・オービエ・キルケゴールは「死に至る病」で有名な、一般には実存主義の創始者と評価されている人物である。彼は絶望を起点とし自らの哲学を創始したが、実存主義と言うにはあまりにプラトン的な人物である。彼はプラトンへの絶望(彼自身の立場から述べるならばキリストへの絶望)から「アウトサイダーの問題」をバルビュスよりも一歩進めた。それはバルビュスの始原的「アウトサイダー」「自らは何ものにも値しない。だが、なお救いを欲する」からの一歩であった。

 「アウトサイダー」は「あまりにも深く、遠くを見通す」がために「自らは何ものにも値しない」へ到達する。それでも彼がまだ「アウトサイダー」である理由は彼が「だが、なお」という姿勢を続けるからなのだが、それは決して彼がなんらかの知的な問題を患っているからではない。まして、諦めない勇気や折れない根性といった高尚なものをお持ちでおられるからでもない。繰り返しになるが、彼は自らの強すぎる欲求から「だが、なお」と述べざるを得ないのである。しかし彼はやはり「見通す」ために、やけっぱちや投げやりほどの力すら発揮できない。ここに「アウトサイダー」の悲劇がある。理性は欲求が不可能であると述べ、欲求は理性の意見を否定する。だが、欲求も理性の助けなしでは目的が達成されないことを知っているし、理性も欲求が無ければ虚しいことを知っているのである。ここで燻っているのが始原的「アウトサイダー」であり、諦めるのが「インサイダー」である

 そしてここから一歩を進めるのがプラトン的、より一般的な言葉を使うならば実存主義的「アウトサイダー」であると言えよう。始原的「アウトサイダー」は自らの欲求が燻りでは済まされぬ時、さらに燃料を投下して篝火を焚く。もちろんそれは彼らを取り巻く様々な現実環境の変化が引き金となる場合もあり、キルケゴールもそんな一人である。具体的にどのようなことが彼を襲ったのかは数多くの彼の研究者が調査結果を残しているので省略するとして、ともかくキルケゴールは火へと薪をくべた。吐き出したくなる意見しか述べぬ理性を無理矢理にでも欲求へと従わせ、可能性の全地平をもう一度洗いざらい検討するよう要請したのだ。

 このようなことが何を引き起こすかは明白である。理性が絶えず述べていた意見「欲求が不可能である」が可能性の全地平に展開していることを今度こそ、彼はまざまざと思い知らされるのである。そしてこれは今まで聞き流してきたそれとは違い、彼にとって決定的な告知となる。キルケゴールが言う「死に至る病」は、この告知に他ならない。

 さて、可能性の全地平が否定された彼はここからどうするか。可能性へ依存しない方法を選択するのである。つまりそれは絶対ということ、絶対の概念を選択するということである。

 キルケゴールが実存主義的「アウトサイダー」として到達したのはこれである。そして彼にとって絶対の概念とは、神でありキリスト教であった。


運営補足1:キルケゴール
セーレン・オービエ・キェルケゴール(1813年5月5日 - 1855年11月11日)は、デンマークの哲学者、思想家[1]。今日では一般に実存主義の創始者、またはその先駆けと評価されている。
キェルケゴールは当時とても影響力が強かったゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル及びヘーゲル学派の哲学あるいは青年ヘーゲル派、また(彼から見て)内容を伴わず形式ばかりにこだわる当時のデンマーク教会に対する痛烈な批判者であった。



運営補足2:カミュ
アルベール・カミュ(Albert Camus、1913年11月7日 - 1960年1月4日)は、フランスの小説家、劇作家、哲学者。フランス領アルジェリア出身。第二次世界大戦中に刊行された小説『異邦人』、エッセイ『シーシュポスの神話』などで注目され、戦後はレジスタンスにおける戦闘的なジャーナリストとして活躍した。


運営補足3:実存主義
じつぞん‐しゅぎ【実存主義】
《〈フランス〉existentialisme》人間の実存を哲学の中心におく思想的立場。合理主義・実証主義に対抗しておこり、20世紀、特に第二次大戦後に文学・芸術を含む思想運動として展開される。キルケゴール・ニーチェらに始まり、ヤスパース・ハイデッガー・マルセル・サルトルらが代表者。実存哲学。




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